皮膚の再生医療について、日本では2007年から始まった皮膚の再生医療についてご紹介します。

「巨大色素性母斑」を自家培養表皮で治療

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「巨大色素性母斑」を自家培養表皮で治療

手術が終わったあとはどうでしたか。
Fさん:痛みは特にありませんでした。 貼られていたテープがかゆかったぐらいです。それとベッドの上で動けませんから腰が痛かったですね(笑)
培養表皮は脆弱なので、移植後ずれない様にしっかり固定しなくてはならないようですが、いかがでしたか
Fさん:ガーゼの上をテープで固定するのですが、それがゆるくて不安になる時が確かにありました。
母:先生がしっかり絞めておかないとだめだとおっしゃっていたので、少しゆるくなると心配で、私も気をつけるようにしていました。
今井先生:Fさんの場合は培養表皮を移植した場所が胸回りでした。 胸回りの場合には術後の腕の動きを考慮する必要があります。 つまり移植する場所によって固定の方法を工夫しなくてはなりません。 培養表皮の移植直後は、ずれやすいですので、上手に固定することが大切です。
退院されたあと、ご自宅でのケアはどうされていましたか。
Fさん:移植したところには軟膏を塗り、ガーゼで保護をしていました。 毎日の入浴は可能でしたが、最初はどれくらいの力で洗っていいのかわからずとても苦労しました。 しっかり洗うと少し血がにじむ感じがありましたので、ゆるめに慎重に洗っていました。 また、軟膏をその都度洗い落とすのですが、擦っているのが軟膏なのか培養表皮なのかがうまくわからなくて。。 そうするうちに菌が入ってしまいました。
母:急に熱が出て、飲食もできなくなってしまい、今井先生に電話したところ「すぐに病院に来てください」と言われ、 診ていただいたところ「菌が入ってしまった」とのこと。原因はちゃんと洗えていなかったことでした。 娘も、私も初めてのことで、慎重になりすぎてしまったようです。
Fさん:2回目以降は、移植したところを怖がらずに擦って洗うようにしました。
今井先生:1回目に移植した培養表皮は、術後の移植部の固定が若干ゆるかったために少しずれてしまい、傷口から菌が入り込んでしまったのです。 Fさんの場合は、移植部の感染が落ち着いたあと、瘢痕治癒しました。 通常ですと瘢痕治癒すると皮膚は硬くなりますが、Fさんの瘢痕治癒した皮膚は柔らかかったため、再度、培養表皮による治療をうまくおこなうことができました。
皮膚が硬くなり、もう大丈夫と思った時期について教えてください。
Fさん:皮膚が大丈夫と感じるようになるまでに、結構時間がかかったような気がします。たぶん1カ月くらいでしょうか。
母:私がもう傷口は治っているんじゃないかなと言っても、娘はまだだめだときかないのです。慎重なタイプなので(笑)
今回の治療費について教えていただけますか。
母:母子家庭なので、ほとんど治療費はかかっていません。 最初の入院費だけ支払って合計で数万円程度でした。保険のおかげで娘に治療を受けさせることができとても感謝しています。 同じようにお困りの方も多くいらっしゃると思いますので、保険が使える治療というのは本当にありがたいことです。 また、娘の場合は途中からでしたが、これからは、はじめから培養表皮で治療ができることも素晴らしいです。 再生医療や未来の医療にとても期待しています。
培養表皮の治療に満足されていますか。
Fさん:移植したところが肌の色になじむまでは、「何年もかかるよ」と先生に言われています。 今もまだ赤い状態です。ですが、以前の縫い縮める手術では、綺麗に細かく傷口を縫ってくださっても傷が残ります。 この培養表皮による治療は傷が残らないのでとても安心できます。
母斑の患者さんで培養表皮による治療を検討されている方へのメッセージをお願いします。
Fさん:患者さんによって手術への不安はそれぞれだとは思いますが、この治療は縫うわけではないので怖がる必要はないと思います。 ただ小学生のようなお子さんの場合、術後に体育とかはしばらくはできないかもしれませんね。 私は当時高校生でしたが、困ったことと言えば修学旅行のお風呂のあとの皮膚のケアぐらいでした。 手術した場所が胸回りで自分ではうまく薬を塗れず、普段は母に塗ってもらっていましたのでその日だけは困りました。 それ以外は特に日常の不便はありませんでした。
母:縫い縮める手術は手術後に痛かったり、突っ張った感じが残ったりするようです。抜糸もありますし。そのような怖さがこの手術にはないです。 培養表皮は手術直後に固定されますので1カ月程度は不便ですが、それ以外は痛みもないようなので、私も困ったことはありませんでした。

母斑患者さんはお子さんが多いようですが、大人の母斑患者さんもいらっしゃいます。何かアドバイスをいただけますか。
Fさん:手術が怖いからこのままでいいやという方もいらっしゃるとは思いますが、この手術は思うほど痛くないですし、 見た目もよくなります。術後の管理は少し大変なところもありますが、お薦めしたいと思います。 私は生まれた時からこの病気とともに生きてきて、手術もたくさんしました。 長い休みにはいつも手術で入院していましたので我慢することも多かったです。 でも、今こうして母斑が消えて手術も終わり、楽しく充実した日々を過ごせています。今井先生と母には心から感謝しています。
母:親としては、あまり迷わずやってみたらどうでしょうかとお伝えしたいです。 最初に巨大色素性母斑は数パーセントが皮膚がんになるとお聞きして、母斑細胞を調べてもらいました。 娘は幸いがんにはならないタイプであり、治療の緊急性はありませんでした。見た目だけの問題です。 今井先生には、見た目のことを充分配慮いただき、少しずつ母斑を取り除いて治療していただきました。母斑が消えて本当によかったと思っています。 また、本日はいろいろなお話が伺えて勉強になりました。ありがとうございました。
こちらこそ貴重なお話をありがとうございました。(取材撮影:2022年1月)

大阪市立総合医療センター 形成外科部長 (2022年3月現在)

今井 啓介 先生 <Imai Keisuke>

北尾 淳 先生

  • 専門分野:唇裂・口蓋裂、頭蓋顔面外科、顔面骨骨折、
  • 先天性眼瞼下垂、漏斗胸、多合指(趾)症
  • 資格:日本形成外科学会小児形成外科分野指導医
  • 日本形成外科学会専門医
  • 日本熱傷学会専門医
  • 日本頭蓋顎顔面外科学会専門医
  • 日本創傷外科学会専門医
  • 日本形成外科学会皮膚腫瘍外科指導専門医
  • 【公式HP】 大阪市立総合医療センター
  • ■今井先生より
  • 自家培養表皮は、大きな母斑でも治療ができるという利点があります。残念ながら、Fさんが小さなころには治療に自家培養表皮が使えませんでした。その時代の治療(手術)は、患者さんの健康な皮膚を母斑の大きさに合わせて切り取って移植する「植皮術」、少し母斑を切り取って縫い縮める「分割切除術」、母斑の周りの健康な皮膚の下に風船をいれて皮膚を伸ばし、母斑を切り取ったところに移植する「エキスパンダー」という治療のみでした。これらの方法では治療できる母斑の大きさに限りがありました。 Fさんの場合、最初の頃は「エキスパンダー」と「分割切除術」でできる限りの母斑を取りましたが、治療が難しい乳房部分に母斑が残っていました。乳房は母斑を切除すると変形してしまいますので、これまでは「植皮術」しか選択肢がありませんでした。自家培養表皮は治療が難しいこのような部位にも有用になります。 先天性巨大色素性母斑でお困りの方は当科までご相談いただければ、より良い治療方法をご提案させていただきます。

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