自家培養表皮ドクター・患者さんインタビュー

大阪大学大学院医学系研究科脳神経感覚器外科学(眼科学)主任教授 西田 幸二先生 x J-TEC 生産技術部(眼科領域開発責任者)小笠原 隆広氏

母斑治療についてお聞きしました。

大阪大学大学院医学系研究科脳神経感覚器外科学(眼科学)主任教授 西田 幸二先生 x J-TEC 生産技術部(眼科領域開発責任者)小笠原 隆広氏

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「母斑治療」についてお聞きしました

本日はお忙しいところありがとうございます。早速ですが、「横浜市立大学附属病院」には、母斑の患者さんは多くいらっしゃるのでしょうか。
そうですね、多い方だと思います。私が母斑治療を専門としていることもあり、2022年にこちらに赴任してからはさらに患者さんが増えてきていると思います。 病院の協力もあって、赴任してすぐに2種類のレーザー機器を導入し、これまで出来なかった治療も可能になりました。 また、正確な情報提供が患者さんの安心感に繋がると考え、みなさんにできるだけ詳しくわかりやすい内容になるよう形成外科のHPも刷新しました。 横浜市立大学附属病院 形成外科では、今後さらに先天性巨大色素性母斑をはじめとした母斑治療にチカラをいれていく予定です。
母斑(あざ)にはさまざまな種類があるようですが、違いを簡単に教えていただけますか。
おっしゃるように、母斑にはさまざまな種類があります。 色で説明するのが分かりやすくて良いと思いますが、主に赤アザ、青アザ、黒アザ、茶アザと呼ばれます。 アザはそのアザの要因となっている細胞や特徴によって分類されます。 例えば赤アザは表面の毛細血管により構成されます。黒アザ・青アザはメラノサイトという皮膚の色素(メラニン)を作る細胞が主な要因です。 メラノサイトが皮膚の少し深いところに集まってできたものが青アザで、メラニンを主成分とする色素細胞が塊になって広がったものが黒アザです。 茶アザは色が茶や黄にわかれますが、メラニンが皮膚の浅いところに増えて出来た場合には茶色で、 皮膚の脂をつくる脂腺や皮膚や毛穴をつくる細胞で構成される場合には黄色にあらわれます。 (詳しくはこちら:横浜市立大学HP
母斑の種類ごとにその治療法も様々だと聞きますが、先生の治療方針などを教えていただけますか。
まず大事なことは、正確に診断を行うことです。例えば黒アザでは、それがホクロの黒アザなのか蒙古斑なのか、判断が必要です。 蒙古斑は自然に消えていくものなので、それを黒アザとして加療してしまうと余分な傷をつけることになってしまいます。 同じく、赤アザの血管腫の中でも乳児血管腫は、自然に小さくなる傾向があり、飲み薬で治療できる場合があります。 一方、赤アザの代表的な毛細血管奇形は自然に消えることがなく一生残ってしまうため、できる限り早めの治療が必要です。 このように、同じ赤アザでも全く治療方針が異なります。母斑の治療は、症状を正確に捉えて診断していくことがとても重要です。 「生まれたその日に既に母斑があったのか」「その後大きくなったのか」「どんな変化があったのか」など、細かな経過も伺って症状を把握します。 必要に応じてダーモスコピーという虫眼鏡の様な機器や超音波を用いて診断することもあります。 加えて私たちはアザが患者さんの生活にどう影響していくかも考えます。 同じアザでも顔などの目立ちやすい箇所にあるのと、洋服で隠れる箇所にあるのとでは違いますよね。 患者さんの今後の生活を見据えた上で、治療の時期や方法を考えていきます。
治療法も痛みや副作用を伴うもの、時間や回数がかかるもの、金銭的な負担を伴うものなどさまざまです。 患者さんの年齢や生活スタイル、通院可能頻度、望む治療の程度など、さまざまな要素を加味しながら最適な治療方針を患者さんと一緒に検討するようにしています。
患者さんにはお子さんも多いので、親御さんはとても心配されています。 できるだけ早く治したいとおっしゃる方が殆どですが、お子さんの成長とともに消えていくアザもあり、ある程度の時間を要するものも多くあります。 高頻度のレーザー照射によって反対に色が抜けてしまうこともあります。 このような治療経過や合併症なども含めて、できる限りわかりやすく説明して理解していただけるように努めています。
当院では、お子さんの全身治療の場合には小児科の先生としっかりタッグを組んで治療を行います。 大学病院ならではの他科との連携診療ができ、先進医療、高度医療にも対応しています。
保険ではできない治療に臨床研究として取り組むなど、通常ではなかなか難しい先進的な医療を大学の専門部署に承認を得ながら提供しています。
再生医療「自家培養表皮」を用いた治療についてお伺いします。最初にこの治療法を知った時はどう思われましたか。
ニュースで自家培養表皮に保険が使えるようになったと聞き、とても素晴らしい進歩だなと楽しみにしていました。 巨大母斑の患者さんで皮膚移植が必要な場合、必ず問題になるのは、移植するための正常な皮膚を身体のどこから取るかです。 移植する皮膚が大きい場合、正常皮膚を剥ぐようにして取るのですが、剥いだ箇所にはどうしても広い擦り傷のような痕が残ってしまいます。 治療のためとはいえ、患部以外にも傷痕を作ってしまうというジレンマがいつもありました。 また、母斑の範囲が広いと患部を覆うだけの皮膚が取れない場合もあります。 自家培養表皮ならそのような悩みがなく治療が行えます。(自家培養表皮についてはこちら) 私たち医師と患者さんにとって、とても画期的な治療が行えるようになったと思います。
初めて自家培養表皮を使われたときはいかがでしたか。
自家培養表皮が保険適用されてからわりとすぐに治療を行ったと思います。(先天性巨大色素性母斑への保険適用 2016年12月  詳しくはこちら:J-TEC HP) 実は自家培養表皮が出る前に、表皮と真皮を薬品で分離して表皮だけを移植する手術を巨大母斑のお子さんに臨床研究的に行ったことがありました。 その時の表皮に比べて自家培養表皮は透けて見えるくらい薄い。そのためより一層丁寧に扱う必要がありました。 これは自家培養表皮に限らず新しい治療法すべてに通ずることですが、一つひとつを慎重に進める必要がありました。 先ほど言った通り、自家培養表皮はメリットが非常に多い画期的な治療であることは間違いないので、 どうやってメリットを生かして治療を行えるかを様々な観点から考え、更なる将来性に期待しながら治療を行っていました。
他の治療法と比べた場合、「自家培養表皮」にはどのようなメリット、デメリットがあるとお考えでしょうか。
メリットは、やはり細胞を培養するために採取する皮膚が非常に小さく(切手大)、 それを培養することで大きな面積の母斑治療が可能になるというところです。 今までの治療法では、移植する皮膚が足りない場合には複数回の手術を行わないといけませんでしたが、 自家培養表皮なら、例えば2回分が1回の手術で治療できてしまうこともあります。 デメリットとしては、先述の通り、取り扱いに少し時間や手間を要することです。 現在の自家培養表皮は薄いため、移植後の管理を誤ると肥厚性瘢痕(傷あとが赤く盛り上がってしまう)といって、少し目立つような傷跡になりやすくなります。 また、患者さんによっては痒みが強くでたりします。もっと厚みのある自家培養表皮ができたらさらに治療がやりやすくなるのではと思います。 技術的に難しいことは私も重々承知していますが、ぜひ製品開発を頑張っていただきたいです。

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