皮膚の再生医療について、日本では2007年から始まった皮膚の再生医療についてご紹介します。

横浜市立大学医学部 形成外科学講座 主任教授

林  礼人 先生 < Hayashi Ayato >

林 礼人 先生

1995年 3月 順天堂大学医学部卒業
1995年 5月 順天堂大学医学部附属順天堂医院 皮膚科 臨床研修医
1997年 4月 順天堂大学医学部形成外科学講座 専攻生
1998年 4月 順天堂大学医学部形成外科学講座 助手
1999年 4月 順天堂大学 医学部 大学院 入学
2003年 3月 順天堂大学 医学部 大学院 卒業
2003年 4月 順天堂大学付属順天堂静岡病院 形成外科医長
2005年 4月 米国 ワシントン大学セントルイス 留学(ポスドク)
2007年 7月 順天堂大学医学部形成外科学講座 助教
2007年 10月 順天堂大学医学部形成外科学講座 准教授
2011年 11月 順天堂大学医学部形成外科学講座 先任准教授
2012年 2月 東京医科大学 皮膚科学講座 兼任准教授
2017年 4月 順天堂大学 医学部 形成外科学講座 教授
2017年 5月 順天堂大学附属浦安病院 形成外科・再建外科 教授
2022年 10月 横浜市立大学医学部形成外科学講座 主任教授
賞罰
2003年 日本形成外科学会 学術奨励賞 基礎部門
2004年 日本形成外科学会 学術奨励賞 基礎部門
2007年 ワシントン大学 形成外科 James Barrett Brown Resident Research Day Best Basic Science Presentation
2013年 日本形成外科学会 学術奨励賞 臨床部門
2016年 日本形成外科学会 学術奨励賞 臨床部門
専門医
日本形成外科学会専門医、日本形成外科学会領域指導医、がん治療認定医、皮膚腫瘍外科指導専門医、創傷外科学会 専門医、日本頭蓋顎顔面外科学会専門医、小児形成外科分野指導医、再建・マイクロサージャリー分野指導医、日本 レーザー医学会レーザー専門医、日本臨床皮膚外科学会認定医、レーザー分野指導医、顔面神経麻痺相談医

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先ほど痒みが出るということでしたが、もう少し詳しく教えてください。
自家培養表皮に限らず、皮膚移植をすると痒みがでやすくなります。 自家培養表皮は薄く、掻いてしまうと破れてしまうためにより注意が必要です。 痒みを抑えるために塗り薬や保湿剤で対処していきます。 皮膚移植をされた方の痒み対策は数年単位で行う場合もあり、5、6年前に手術された方でも継続して痒み治療を行っていることもあります。
「自家培養表皮」を用いた実際の手術例についてもう少し詳しくお話を聞かせてください。
背中からお腹にかけて大きな母斑(先天性巨大色素性母斑)があるお子さんがいらっしゃいましたが、 一度の手術では取り切れない範囲の大きさだったので、計6回の手術を行いました。 移植した自家培養表皮の生着具合を確認してから次の手術を行うため、この患者さんの時は手術と手術の間を約1カ月空けていました。 乳児期に治療を行う場合、まずは母斑細胞を剥く処置(キュレッテージ)や切除を行い、そこに自家培養表皮移植を行います。 ただ、患者さんによって母斑の深さが異なるため、母斑細胞が深い箇所にある場合には、自家植皮(自分の正常な皮膚を移植)も併用します。 頭部などの皮膚を採取しても目立たない箇所から採皮します。移植後は、皮膚がしっかりした強度になるまでにある程度時間が必要です。 また痒みを伴うため、軟膏で保護しながら経過を診ていきます。臀部周囲など、場所によっては肥厚性瘢痕になりやすいため、別の手技を併用しながら治療することもあります。 患者さんの回復具合をよく観察しながら長期的に経過を診て治療を検討していきます。
治療のスケジュールについて教えていただけますか。
母斑治療は幼少期に行うことが多いのですが、年齢や母斑の範囲によって、治療スケジュールはずいぶん変わってきます。 生まれたての赤ちゃんで広い面積の母斑を持つ患者さんは、キュレッテージで母斑を剥がす際、 生後半年以内に行った方が母斑と正常皮膚との境がはっきりしているので良いと言われています。 治療プランは、自家培養表皮の培養(製造)期間が約3週間であることと、1回の治療でどれくらいのアザを切除するのか、 そして自家培養表皮の生着までの期間などを考慮して作っていきます。治療は自家培養表皮だけではなく(患部の)場所によっては他の方法がいい場合もありますので、 都度最適な方法を選び併用します。患者さん一人ひとりの治療方法が異なるため、スケジュールも異なってきます。 また小さなお子さんの場合は、病院がお子さんをお預かりしてフルサポートで治療することも多くあります。 親御さんは面会に来られたり泊まられたりご都合に合わせて様々ですが、 当院は遠方から来られる患者さんが大変多いことや近年は新型コロナウイルスの影響から、 完全預かりのほうが親御さんが安心されることもあります。 先天性巨大色素性母斑の患者さんの全体数はそれほど多くありませんが、今はインターネットなどで病院を探すこともできるので、 親御さんが一生懸命調べてくれて、少し遠くてもこちらに治療へ来てみようという方が多くいらっしゃいます。
「自家培養表皮」を含め、再生医療はまだまだ新しい治療法です。再生医療についてご意見をいただけますか。
すでに実用化された製品である自家培養表皮をはじめ、再生医療のトップランナーとしてJ-TECさんらが頑張っておられますが、 こうした再生医療は未来を感じさせるような、新しい治療に繋がる技術であることは間違いないと思います。 再生医療が使われ始めた当初は、あれもできるかもしれない、これもできるかもしれないと、様々な夢が描かれていました。 しかしいざ使ってみると、意外な問題点や限界点などが少なからず見えてきました。 実用化から10年近く経ち、現在は夢いっぱいのところから現実的な治療として、最終的にどのように有効的に使うのかをしっかり見極める段階になってきていると思います。 再生医療製品のメリット、デメリットを充分理解しながら使用していくことで、例えば別の部位への応用など、 さらにこの技術の可能性が広がってくるのではないでしょうか。 再生医療はこれからの医療を変えていく技術であることは間違いないので大いに期待をしています。
最後に、母斑で悩まれている方々にアドバイスやメッセージをいただけますか。
母斑などの体表面にあらわれる疾患で、自信が持てなかったり、上手く人前に出て行けなかったりする方々が多くいらっしゃいます。 身体は健康でも、大変苦しい思いをなさっています。アザに関する悩みや考えはご本人やご家族にしか分からないことがあると思います。 そういった方々を、何とか手助けすることができないか、明るいものにならないか。それが、私が形成外科を選択した最も大きな理由です。 悩みや思いというのは、ひとりひとり違います。私にご相談いただければ、一緒にできることを考え、お役に立ちたいと考えております。 私自身この領域に全力で取り組み、より良い治療を目指していきますので、いつでもご相談ください。
(取材:2023.12)

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