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自家培養口腔粘膜上皮
開発者インタビュー

大阪大学大学院医学系研究科 脳神経感覚器外科学(眼科学) 主任教授

西田幸二先生


西田 幸二 先生 <Nishida Kohji>

1988 年 大阪大学医学部 卒業

1988 年 大阪大学医学部附属病院 医員

1989 年 大阪厚生年金病院 医員

1992 年 京都府立医科大学 助手

1998 年 ソーク研究所( 米国、サンディエゴ) 研究員

2000 年 大阪大学大学院医学系研究科 助手

2001 年 大阪大学大学院医学系研究科 講師

2004 年 大阪大学大学院医学系研究科 助教授

2006 年 東北大学大学院医学系研究科 主任教授

2010 年 大阪大学大学院医学系研究科 主任教授

現在に至る

2022 年 大阪大学ヒューマン・メタバース疾患研究拠点 拠点長

現在に至る

所属学会:日本再生医療学会(副理事長)、日本角膜移植学会(理事長)、日本眼科学会(常務理事)、 日本角膜学会(評議員)、日本バイオマテリアル学会(理事)、他

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開発時の問題や苦労などはいかがでしたか。
小笠原: 自家培養角膜上皮では、イタリアのペレグリーニ氏から技術を教わったものの、 治療に必要なフィブリンゲルの成分の一部が日本では使えないという大きな問題が発生しました。 その時に西田先生から温度応答性培養皿という技術を提供していただいたおかげで開発を継続できました。いやこの時は本当に救われました。
西田: こうしたことも信頼関係が重要になりますよね。 我々も苦労して生み出した技術を提供するわけですから、出し惜しみをすることはないですが、 製品化するのであれば、やはり信頼のおける企業とともにしっかり行いたいです。
こうして実用化された自家培養口腔粘膜上皮ですが、初めて患者さんに移植した際はいかがでしたか。
西田: それは無茶苦茶緊張しますよ(笑)準備はすべて完璧にしているつもりですが、やはりなにかあったらどうしよう・・・と考えてしまいます。
小笠原: 私も自分が作った細胞シートをはじめて西田先生にお渡しした時は怖くて仕方がなかったです。 手術中はずっと胃がぐるぐるしていました。手術が終わって、先生からいいシートだったよと言われたときは、言葉に表せないほどほっとしました。 術後の先生は非常に落ち着いていらっしゃったので、緊張していたと聞いて驚きました(笑)。
(本治療で視力が回復する場合は)術後どのくらいで視力が回復(※)するのですか。

※本治療の効能効果は角膜上皮の修復であり、移植後の視力回復の程度は患者さんごとに異なります。

西田: 個人差はありますが、比較的早いと思います。だいたい1ヶ月くらいですか。はじめは炎症がありますが、2週目以降は炎症も落ち着くので、そこから視力検査などを行い、確認していきます。
手術自体は難しいものなのでしょうか。
西田: 術前に講習も受けていただきますので、角膜移植を行った経験があり、トレーニングを受けた医師であれば、さほど問題ないと思います。
いま現在、先生が進めている研究や、今後の展望についてお話いただけますか。
西田: iPS細胞から角膜上皮シートを作る技術を開発しました。 こちらも世界ではじめての技術です。これはストックしてある細胞から作ることができ、品質が一定であるという大きなメリットがあります。 また大量につくることが可能であり、ストックしておけるため、必要な時にすぐ使用できる。世界中の患者さんに貢献できる可能性があります。
それから、まったく別の話ですが、世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)※というものがあり、こちらにも力をいれています。
※https://www.jsps.go.jp/j-toplevel/index.html
(概要:文部科学省の事業。西田先生のグループはヒューマン・メタバース疾患研究拠点として「バイオデジタルツインを活用したヒト疾患メカニズムの包括的理解と超個別的医療の実現」を目指しています)
WPIについてもう少し教えていただけますか。
西田: 我々のグループでは「バイオデジタルツインを活用したヒト疾患メカニズムの包括的理解と超個別的医療の実現」という、未来的な内容を研究しています。 ES細胞やiPS細胞などを使って試験管内でつくられた小さな臓器をオルガノイドといいますが、ミリ単位のサイズで、脳でも、目でも、肝臓でも、心臓でも、本物と類似した構造を持った臓器をつくります。 これを活用すれば、ある人の臓器の状態を体の外で再現できます。これらオルガノイドから得たデジタルデータを用いて、仮想空間に再現するのが「バイオデジタルツイン」です。 バイオデジタルツインとは、ある人の生体内で起こっているすべてのことを仮想空間で再現した、人体の分身(ツイン)です。 これを使って、新しい医療・治療スタイルを創造していくプロジェクトです。
大変興味深い内容です。医療スタイルも大きく変わりますね。
西田: いまも原因のわからない病気がたくさんあります。 体外でシミュレーションすることで病気の原因がわかるようになってくるのではないかと考えています。 現実社会にいる人の分身が仮想空間にあり、それを使って将来自分の体に何が起こるかの情報を得ることができるのです。 例えば今、食生活の悪い人が10年後にどうなるかがわかり、それを踏まえて生活をコントロールできれば、 健康長寿社会に繋がります。バイオデジタルツインは、これからのさまざまな医療に必要になるだろうし、とてもおもしろいです。 今と大きく変わるのは、病気になってからではなく、病気になる前にわかる(予防できる)ということ。 仮想空間上で診断、その場で医療関係者と本人がコミュニケーションをとることもできるなど、そんな世界が作っていければと考えています。
最後になりますが、自家培養口腔粘膜上皮手術を検討中の患者さんにひとことお願いします。
西田: 角膜の病気で困っている方。いま新しい医療、再生医療の開発が日進月歩で進んでいますので、期待を持っていただきたいです。 ご自分の病気について、なにか治療方法がないかと思われている方は、積極的に調べていただければと思います。
小笠原: 再生医療という言葉は、まだふわりとした印象かもしれませんが、もう現実の治療として結果が出せるものになっています。 病気が治らず長年苦しんでおられた方には、新たな治療法のひとつとして考えていただき、一歩を踏み出していただければと思います。
西田先生、小笠原さん、たいへん興味深いお話をありがとうございました。

(取材:2022.12)

株式会社 ジャパン・ティッシュエンジニアリング 生産技術部(眼科領域開発責任者)

小笠原 隆広氏


小笠原 隆広 氏 <Ogawasara Takahiro>

2005年 弘前大学農学生命科学部 卒業

2007年 弘前大学大学院農学生命科学部応用生命科学科 修了

2007年 株式会社ジャパン・ティッシュエンジニアリング(J-TEC)入社

    研究開発部配属  研究開発支援製品事業に従事

2009年 自家培養角膜上皮ネピックの開発に従事

2015年 自家培養口腔粘膜上皮オキュラルの治験製品製造に従事

2018年 眼科領域開発責任者として両製品の開発に従事

2020年 自家培養角膜上皮ネピック製造販売承認取得

2021年 自家培養口腔粘膜上皮オキュラル製造販売承認取得

2022年 生産技術部(眼科領域開発責任者兼務)配属 現在に至る

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