皮膚の再生医療について、日本では2007年から始まった皮膚の再生医療についてご紹介します。

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皮膚の再生医療について

皮膚の再生医療とは?

「転んでひざをすりむいた」「包丁で指先を切ってしまった」など、誰もが一度は経験したことがある小さな皮膚のケガ。ほとんどの場合は、数日で治ってしまいます。皮膚は人体の中で、再生能力がとても高い部分と言われています。しかし、大きなケガややけどなどで「皮膚が大きく失われてしまう」と、自分の再生能力では足りずに、命に関わることになります。

皮膚のはたらき 皮膚には大きく4つの機能があります。「水分の喪失や透過を防ぐこと」「体温を調節すること」「外からの刺激を感知すること」「微生物や物理化学的な刺激(やけどやしもやけ等)から生体を守ること」です。この機能が失われてしまうと、人は生命の維持がすぐにできなくなってしまいます。

皮膚のはたらき

では、皮膚が大きく失われてしまった場合はどういった処置をすればいいのでしょうか。それは、皮膚の代わりに動物の皮膚や他人の皮膚などで覆うことです。しかし動物や他人の皮膚は、最終的には体内で異物と判断され、拒否反応が起きてしまいます。 それゆえ、皮膚の移植は、「健康な自分の皮膚をその部分に移植する」「自分のDNA に最も近いドナーからの皮膚を移植する」といった方法に限られていました。

人間の皮膚の面積は大人で約1.6㎡、畳1畳分 人間の皮膚の面積は大人で約1.6 ㎡、畳1畳分くらいです。人は30% 以上の皮膚がダメージを受けると生命が危険に晒されると言われてきました。大体座布団1枚分の大きさです。これまではそうした大きな損傷は元どおりには治らず、患者さんは命を落としたり、何度も移植を繰り返すなど、長い年月をかけた苦しい治療を強いられました。

ハワード・グリーン教授 1975 年、米国ハーバード大学のグリーン教授らは、「ヒトの表皮細胞の培養方法」を見つけました。これが「皮膚の再生医療」の始まりです。
グリーン教授らは、特殊な細胞「3T3 細胞」を用いることで、表皮細胞を培養するのにとてもよい環境をつくることに成功しました。1983 年には、全身に90% 以上の重症熱傷(※1)を負った米国の2 人の幼児が、培養表皮の移植により救命され、世界中から大きく注目されました。この方法で培養された表皮細胞は、世界中でさまざまな皮膚疾患に臨床応用され、有用であることが報告されています(※2)。

日本でも「自家培養表皮」による治療が熊谷憲夫先生ら(※3)により1985 年からおこなわれていましたが、(株)ジャパン・ティッシュ・エンジニアリングが1999 年に「自家培養表皮」の開発に着手、2007 年に日本で初めての再生医療製品として国から認可を受け、2009 年に保険適用となりました。

皮膚の再生医療

現在では全国の医療機関で使用されています。皮膚の再生医療「自家培養表皮」のメリットは、患者さん自身の細胞を使用するので、「免疫拒絶反応の可能性が極めて少ないこと」「今までの皮膚移植のようなドナー提供を待つ必要がないこと」です。「自家培養表皮」は、今まで治療が不可能だった広範囲の皮膚損傷の治療に大きな進歩をもたらしました。

(※1) 重症熱傷とは、生命に影響をもたらす可能性が高い広範囲に及ぶ熱傷のことをいい、種々の分類によって数値的に定義されています。また顔面や気道の損傷、種々の骨折、その他電撃による損傷なども重症熱傷という定義に含まれます。
(※2)http://www.jpte.co.jp/business/regenerative/cultured_epidermis.html
(※3)「培養表皮の臨床応用」組織培養 19(13)489-493,1993

皮膚の再生医療「自家培養表皮」とは ?

自家培養表皮 「自家」という言葉は、患者さん本人のものという意味です。
患者さんの健康な皮膚を切手くらいの大きさで切り取り、これを必要な大きさまで培養して患者さんに戻す方法が「自家培養表皮」移植です。
表皮細胞を培養するためには、グリーン教授らが開発した特殊な細胞「3T3 細胞」を下敷きとして、抗生物質や動物由来の原料が用いられます。この方法により表皮細胞だけを安定的かつ計画的に増やすことができます。2週間程度で体表の約10%、3~4週間程度の培養で体表全面を覆う自家培養表皮の細胞シートが作成できます。
日本で使用される細胞シートは、1枚の大きさが「8㎝×10㎝=80㎠」で、およそ20枚で大人の体表面積の約10%を覆える大きさということになります。

自家培養表皮製造法

どんな治療ができるのでしょう ?

1 熱傷(ねっしょう)の治療

皮膚の構造 熱傷(ねっしょう)とはやけどのことです。人間の皮膚は大きく3層に分かれています。表面から「表皮」「真皮」「皮下組織」です。真皮下層まで損傷する「深達性 II 度熱傷」および皮下組織まで損傷する「Ⅲ度熱傷」の深いやけどは自然治癒が難しく手術が必要となります。大きな深いやけどの場合、既存の植皮術(患者さんの健康な皮膚を移植する手術)では皮膚が不足してしまい治療が困難です。「自家培養表皮」は表皮細胞を増やせるため広範囲の深いやけどであっても治療が可能になります。
体表面積 30%以上の深いやけどを負った患者さんの健康な皮膚を培養した「自家培養表皮」を、やけどを負った場所に移植します。患部の皮膚を整えた後に貼っていくものになります。

2 母斑(ぼはん)の治療
母斑(ぼはん)とは黒褐色のあざで、ほくろのような小さなものから、大きなものまでさまざまあり、黒い色素を持つメラノサイトという色素細胞が皮膚の表皮と真皮の境目や真皮の中にたまっていくことであざとなります。その中でも先天性巨大色素性母斑は生まれつきのもので、体幹、手足、頭などに現われます。成人では直径20㎝以上、幼児では体幹は 6 ㎝以上、頭は 9 ㎝以上のあざをいいます。先天性巨大色素性母斑は、将来的に悪性黒色腫(皮膚がん)を発症する恐れ(日本では数%程度)があります。この悪性黒色腫はその半数が3歳までに発症するといわれており、その患部を早期に切り取ることが望まれます。母斑が小さかったり、母斑の場所が手術しやすい場所にある場合には、切除して縫い縮めたり、あざのない患者さんの皮膚を移植したりすることで治療が可能です。しかし、母斑が大きい場合や手術が難しい場所にある場合には、患者さんの皮膚を培養した「自家培養表皮」を用いることが考慮されます。手術方法は、母斑を取り除いた後に「自家培養表皮」を貼っていくものです。

3 表皮水疱症(ひょうひすいほうしょう)の治療

皮膚の構造 表皮水疱症(ひょうひすいほうしょう)とは、日常生活の少しの刺激や摩擦で皮膚や粘膜のびらん(ただれ)や水疱(水ぶくれ)を生じる遺伝性の皮膚病です。人間の皮膚は大きく3層に分かれ、表面から「表皮」「真皮」「皮下組織」で構成されます。表皮と真皮の間には接着の役割を持つ基底膜があります。表皮水疱症はその基底膜を構成するタンパク遺伝子の変異によるものとされています。
そして、遺伝形式と水疱が発症する皮膚の層の位置によって大きく3つの病型に分けられます。1. 表皮内に水疱ができる「単純型」 2. 表皮と基底膜の間にできる「接合部型」 3. 真皮にできる「栄養障害型」です。表皮水疱症には、水疱、びらんの他に瘢痕、栄養不足や貧血などさまざまな症状があり、それぞれに対して治療がおこなわれますが、これらの治療は対症療法であり、この疾患を治すものではありません。
「自家培養表皮」は、2. 表皮と基底膜の間にできる「接合部型」と、3. 真皮にできる「栄養障害型」の治療に用いることができます。手術方法は他の治療と同じように、患部を整えた後に「自家培養表皮」を貼っていくものです。

4 白斑(はくはん)の治療
白斑(はくはん)とは皮膚の基底膜に分布するメラノサイト(色素細胞)が何らかの原因で減少・消失し、 その部分が白くなる病気です。これにはいくつかの治療法がありますが、患者さんの皮膚を培養しメラノサイトを豊富に含んだ「自家培養表皮」を移植することで、正常皮膚に近い色にすることが目指せます。この手術は、患部皮膚を薄く削り整え、「自家培養表皮」を貼っていく外科手術になります。

保険の適用について

保険適用 「自家培養表皮移植」は、2020年7月現在、「重症熱傷」、「先天性巨大色素性母斑」、「表皮水疱症(接合部型と栄養障害型に限る)」の治療で保険が適用されます。また、高額療養費制度の対象にもなりますので、患者さんの費用負担は軽減されます。
高額療養費制度についてはこちらをご覧ください。患者さんがお子さまの場合には、こども医療費助成制度、表皮水疱症については「指定難病」の助成の対象となります。詳しくはお住いの地方自治体の窓口にお問い合わせください。

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