

自家培養軟骨移植術の開発者「越智先生」の第一助手であった「内尾先生」。将来落語家になりたかった、ご実家はソロバン製造の職人で得意先回りによくついていったなど、子供の頃の楽しいお話を交えながら、患者さんの福間さんと対談いただきました。
福間:はい、いま日常的には問題ないです。まだ完全ではないのですが走れるようにもなってきました。私は保健体育の教師をしているので、普通の方より体を動かす機会が多く、立っている時間も長い仕事なのでひざには結構厳しい環境だとは思いますが、気をつけながら仕事や生活をこなしています。
内尾:はい、彼女の場合は両足の軟骨が傷んでいました。このことは関節鏡検査で初めからわかっていましたが、まず、痛みと腫れのひどい左足の治療をしました。バレーボールや陸上のダッシュなど、ひざを曲げながら負荷をかけるスポーツは、ひざのお皿の裏側にストレスがかかり軟骨損傷することがあります。事故などの損傷と違い、長年の蓄積によるものなので気づかないことが多くあります。そしてある日突然痛みがくる。調べてみたら軟骨が大きく欠損していたという患者さんを私も多く診ています。その原因ですが、軟骨というのは表面が氷のようにツルツルで中も柔らく弾力があるのですが、酷使してしまうと表面の一部が傷つき、他の部分より脆くなってしまい、表層雪崩のようにズレが出て、それが亀裂になり損傷してしまいます。
内尾:大変な思いをしながらも自家培養軟骨が出来上がり、患者さんに移植をして、手術後に初めて患者さんの軟骨が治っているところを関節鏡で見たときは、それはすごい感動で。もちろん学術的に治ることはわかっていましたが、実際に人の役に立った、治った、患者さんの幸せに繋がると感じ、その喜びは格別でした。今までの苦労も全て吹っ飛びました。しかも今まで誰もやったことがないことですから。
福間:手術直後は同じですが、自家培養軟骨移植術はクッション性を感じられる気がします。ひざの骨の当たりが良くて、痛みの軽減具合も良い気がします。これまでの治療も治るには時間がかかると言われていたので、経過は同じですが、今回は違和感なく自然な感じで治っていくような気がしています。
内尾:スポーツによってひざの負担はかなり違うと思います。一定の動きのスポーツよりも、テニスやバスケットボールなど急に方向転換するスポーツの方がどうしてもひざに負担がかかります。また、スポーツでひざをケガすると最終的にOA(変形性膝関節症)になる可能性が高くなります。OA患者のうち、1割の患者さんはスポーツが原因と言われています。ですから、壮年期になってひざにトラブルが出て日常生活や仕事に支障がある方などは、早めに原因を見つけて治療することがとても大事です。人工関節になる前に自家培養軟骨移植などの適切な治療をおこなえば、また元のように歩いたり座ったりできるようになります。高齢社会については何かとネガティブなことが取り上げられますが、こうした治療で、それこそ素晴らしい技能を持っていた職人さんが再び匠の技を後世に伝えていくことができるようになります。健康な世の中になっていくことは素晴らしいことと私は思っています。(次ページにつづく)