患者さん
CDさん
●40代/男性
●職業:医師(整形外科医)
●趣味(スポーツ):サッカー、トライアスロン(手術前から愛好)
●ひざの病歴: 16歳時に左の離断性骨軟骨炎を発症し、地元の病院で手術を受けている。 30歳頃から左膝に水が溜まるようになり、痛みが頻繁に出現するようになった。 32歳時にサッカーで右膝の前十字靱帯を損傷し手術を受けた際に、左膝の軟骨損傷部位に骨穿孔術を同時に施行された。 しかし、痛みと腫脹が継続して改善せず。
●2014年11月(34歳)に軟骨採取
●2014年12月 自家培養軟骨を左ひざ(6㎝²)に移植
こんにちは、本日はよろしくお願いいたします。今回は先生(医師)が患者さんということで、少し不思議な感じです(笑)。 先生の立場、患者さんの立場と、両面からお話を伺えれば幸いです。
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現在のひざの状態はいかがですか
CD:手術が2014年12月でしたから7年近くたちましたね。手術前よりは確実によい状態です。
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自家培養軟骨移植術をどのように知りましたか
CD:自家培養軟骨移植術を知ったきっかけは、開発者のBrittberg先生らの医学論文で、手術をする前から知っていました。医師の同僚からも話は聞いていましたし、医学会などで発表を聞いたりもして情報は知っておりました。
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手術を受けようと決めた理由を教えてください
CD:とにかくひざが痛くて腫れるのが辛かったです。基本的に趣味がスポーツでオフに身体を動かすのが好きでしたので、主治医(上司)に相談しました。その際に「自家培養軟骨移植術やるか」といわれて、他に選択肢はあるものの、自家培養軟骨移植術が魅力的な方法だと思っていたので、即決しました。
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手術を受ける前の症状や状態を教えてください
CD:激しいスポーツをするたびにひざが腫れていました。 そういう時はスポーツをして数日は日常的に足を引きずって歩いていましたし、階段の上り下りには手すりが必要で、 日常生活にも影響があるような状況でした。原因は16歳の時に発症した離断性骨軟骨炎ですね。 20代のころは特別問題ありませんでしたが、30代になってからは激しいスポーツをすると痛みや腫れが出るようになりました。 自分が医師として思うのは、私のように症状が出てから治療するのではなく、早めに治療することが肝要だという事です。 例えば、離断性骨軟骨炎で痛みがなく手術を迷っている若い患者さんには 「将来のことを考えるなら、早めに治療しましょう」と強く伝えたいですね。 軟骨という組織の大きな特徴として「一度壊れてしまうと元に戻らない」という繊細な特徴があります。 ひざを酷使して治療せず放置しておくと、軟骨の変性がどんどん進んでしまい、慢性的な痛みでストレスを抱えることになり、 生活の質や日常生活にも支障がでてきます。 治療の選択肢も狭くなり、病院を受診した時には関節の変性が強く、人工関節しか選択肢がない…という患者さんも中にはいらっしゃいます。 将来、痛みのないひざでスポーツなどの趣味を長く楽しむためには、ぜひ早めの治療を。実体験です(笑)
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若い方やプロのアスリートの方は、治療で長く休むという決断が難しいことがあります
CD:そうですね。特にプロフェッショナルアスリートの方で、手術治療で長期間休養を挟むことに抵抗を持たれる方も多いかと思います。 ただ、より良いひざのコンディションを取り戻すことで、結果的には選手生命を伸ばすことができる場合もあります。 一度、専門医に相談してよく話を聞いてみることが重要だと思います。 先程の続きになりますが、軟骨は一度ダメージを受けると自然に再生することはないので、折角のチャンスを無駄にしないで欲しいと思います。 また、もう一つの意見として、高いスポーツ活動を続けることはもちろん限界もあり、 いつかは一線を引退します。その後に続く長い人生を考えた際に、毎日ひざの痛みが続くことは、 身体的な問題だけでなく精神的な問題も増えてきます。 身体に不自由のない若い方々には自分の10年後15年後という少し先の未来を想像することは難しいかもしれませんが、 一つのチョイスとして、健康的な人生を送るためには早く治療することも選択肢として考えて欲しいと思っています。 後戻りができないところで後悔しても、もう治療ができないこともあることもありますから。

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自家培養軟骨移植術を受ける前の不安はありましたか
CD:不安は全くなかったです。というのも2014年の当時は軟骨の治療方法の選択肢が限られていて、 自分のひざを確実に硝子軟骨で治すには自家培養軟骨移植術という新しい治療法しかありませんでした。 ただ、仕事や日常生活、スポーツにいつどのように復帰できるかという点については少し不安がありました。 できれば早く復帰したいけど、あまり無理はできないというような悩みや葛藤はありました。 この不安を取り除くためには、医療従事者からのしっかりとした情報提供が必要なのだと、患者の立場から実感しましたね。
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患者さんの目標設定も大切ですね
CD:そうですね。患者さんによって目標が仕事復帰だったり、スポーツ復帰だったりするのですが、 仕事も患者さんにより、デスクワークであったり、重労働であったりなどひざにかかる負担はさまざまだと思います。 ですから患者さんが目指す生活スタイルによって復帰時期は多少異なってくると思います。 この手術にはより早く社会復帰あるいはスポーツ復帰できるようになるという期待がありますが、 無理に復帰を早めるのは良くないと思います。難しいことですが、 慌てずに目標に向かってしっかりと治療に向き合うことが大切です。自分の人生に関わることですからね。
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最初の関節鏡の手術(組織採取)について教えてください。
入院期間は何日でしたか。CD:局所麻酔で採取してもらいましたので、日帰りでした。手術後に歩いて帰りました。
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手術後の傷や痛みはどうでしたか
CD:軟骨を取りましたのでもちろん腫れましたし痛みもありましたが、手術前もずっと腫れて痛かったのでそれほど気になりませんでしたね。
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手術費用(実費)はどの程度でしたか
CD:入院しませんでしたので関節鏡手術の費用だけでした。おそらく2から3万円くらいだったかと思います。
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手術前後のリハビリについて内容や頻度、期間を教えてください
CD:1回目の手術前後は特にリハビリしませんでした。
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2回目の移植手術について教えてください。
入院期間は何日でしたか。CD:1週間程度でした。松葉杖で退院して、すぐデスクワークしていました。
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ずいぶん早いですね。手術後の傷や痛みはどうでしたか。
CD:痛みは1回目の軟骨採取の時と同様にさほどつらくはなかったです。 もちろん手術して数日は痛かったですが、日を追うごとに軽くなっていきました。 16才の時に一度手術を受けているのですが、その時の方が痛みは圧倒的に辛かったですね。
特に初日の夜は痛みで一睡もできなかったです。今でもトラウマです(笑)。 当時と比べれば、麻酔の技術も進歩していて、神経ブロック注射などで除痛処置してもらえます。 そのお陰で、術後大きな問題はありませんでした。

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手術費用(実費)はどの程度でしたか。
CD:20万円くらいだったと思います。
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手術前後のリハビリについて内容や頻度、期間を教えてください。
CD:手術前のリハビリは特にしていませんでした。 術後は、4週から部分荷重を始めて筋力トレーニングや可動域訓練を2ヶ月ほど行いました。 理学療法士の方に教えていただいて、自分でやってみるという感じでした。
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入院中に困ったことやつらかったこと、嬉しかったことを教えてください
CD:とくに困ったことはなかったです。松葉杖も慣れていましたし。ただ、慣れていない人には難しいかもしれませんね。
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リハビリの際の不安やその克服方法があれば教えてください
CD:やはり医師や理学療法士の指導内容を良く聞いてそれに従ってリハビリテーションを進めることですね。 体重の載せ方を理学療法士の方と一緒に習得していくこと。そして無理をしないこと。 頑張りすぎると腫れてしまいますので。焦らないことが大切です。私は少し無理をしても腫れませんでしたが、痛みは出ました。 特に術後1年間は「慌てず慎重に」ですね。 術後3ヶ月から6ヶ月ぐらいで症状が消えたからもう大丈夫ではないかと思って無理をすると後々に悪影響が出ます。 移植した軟骨を長持ちさせるためには大事にしましょう。 軟骨は筋肉や骨などの他の運動器組織とは違って、とにかく治りにくい組織なので要注意なのです。 ただ、どうしても早く復帰したいという患者さんに対しては、医師としては将来への影響をしっかりと説明した上で、 患者さんの希望に沿うようにリハビリを進めたいとは思っています。
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日常生活に戻れたと感じたのはいつ頃ですか
CD:2ヶ月後ぐらいには通常になったと思います。
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自家培養軟骨移植術を受けてよかったと思いますか
CD:術前の症状が改善しましたので受けて良かったと思っています。腫れと痛みが取れましたし、スポーツもできるようになりました。
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今回の手術費用(実費)についてどう思いますか
CD:妥当だと思います。炎症や痛みを抑える多血小板血漿(PRP)療法などの自費診療とは異なり、この手術は軟骨を治せて、保険がききますし、高額療養費制度で負担は最小限になります。
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自家培養軟骨移植術の長期成績はどうでしょうか
CD:長期成績ということは10年以上の結果ということになりますが、私の場合、あと3年で10年です。 現状を考えると患者としては悪くはない結果だと思っています。 今は少し痛みが出ますが、手術を受けた年齢や罹病期間(受傷してから手術までの期間)を考えれば100点満点中、 70-80点というところだと思います。 今後は、この手術と骨切り術(ひざの角度を矯正する手術)などを併用して、軟骨だけではなく、 O脚などのアライメントを整えて荷重環境を良くするなどトータルにひざを治療することで、 より治療成績が向上するのではないでしょうか。また、10代で軟骨を損傷した場合、早めに手術を受けた方のほうが、 より治療成績は良いと思います。 その理由として、若いからこその回復力の高さ、つまり、細胞の能力が高いということがあげられると思います。
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本手術の有害事象はありますか。あればその対処方法を教えてください
CD:私の場合は移植部が剥がれたり、アレルギー反応が出るなどの有害な事象はありませんでした。 もし、移植後に痛みや腫れ、引っ掛かりなどの何か気になる症状がでたら、すぐに医師に相談してください。 早めに対応することが大切です。
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リハビリテーションで気を付けたいことはありますか
CD:先ほども言いましたが、慎重に焦らずリハビリに取り組むことですね。 スポーツ復帰を無理に早めると5年後10年後に悪影響が出る可能性があります。 現状は一般的には、術後2週程度で可動域訓練(ひざを動かす)をはじめて、4週で荷重をひざにかけはじめるというプログラムだと思います。 もちろん治療の内容によっては時期が前後することはあります。 大事なことは、移植したところに過度なストレスがかからないように注意しながら、 ひざが固まらないよう、筋力が落ちないようにリハビリをしっかり行うことです。 移植された軟骨は適度な力学的刺激があったほうがよく育つからです。
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日常生活に早く戻るためのアドバイスをお願いします
CD:患者さんによっては腫れや痛みが出やすい方もいらっしゃいます。 そのような場合には筋力が落ちて日常生活やスポーツへの復帰が遅れてしまいます。 ひざを触って腫れがあればすぐに医師に相談してください。 手術後は筋萎縮が必ずおこるので「筋力トレーニング」が大切です。 痛むからひざをかばってトレーニングしない方もいらっしゃいますが、 トレーニングしないと逆に痛みが残る場合もあります。特に太ももの前にある大腿四頭筋をもとに戻すことで、 ひざのストレスを減らし、痛みや炎症を抑えることが出来ます。リハビリに行った時にだけ頑張るのではなく、 日頃のセルフケアがとても大事なのです。

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CDさん、有難うございました。(取材日:2021/8/20)
ひざの状態(CDさんの調査結果)
注)このグラフはCDさんに「症状」「痛み」「日常生活」 「スポーツやレクリエーション活動」「生活の質」について、 回復の程度を5段階に分けて聞き取りをした結果です。 例えば、「症状」の場合、質問が5つあり「ひざに腫れがありますか?」という質問に対し 「まったくない」「まれにある」「ときどきある」「ひんぱんにある」「いつもある」のどれかを答えていただきます。 「まったくない」という一番良い状態の回答が多ければ多いほど、 スコアは100に近づきます。つまり、グラフは、術前は低かったスコアが経時的に100に近づき改善されていることを示しています。 「症状」「痛み」「日常生活」と比べて「スポーツやレクリエーション活動」 「生活の質」の術前スコアが低いこともわかります。 しかし、1年、2年と経過をみますと80点から100点近くまで改善されています。

主治医:
弘前大学大学院医学研究科
整形外科学講座 教授 石橋 恭之先生主な専門分野:
スポーツ整形外科、関節鏡視下手術、膝肩関節外科