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落合聡司先生×植松佑介 ドクター×患者さんインタビュー

ひざ

自家培養軟骨移植術を受けられた患者さんや、手術を行ったドクターへのインタビューです。

独立行政法人国立病院機構 甲府病院 スポーツ・膝疾患治療センター長

落合 聡司先生

Ochiai Satoshi

国立病院機構 甲府病院内にスポーツ外傷や膝疾患の治療を目的として2007年に開設されたスポーツ・膝疾患治療センターのセンター長。
ひざのトラブルで悩むアスリートや一般患者に最適な治療と的確なアドバイスをおこなう医師として注目されている。

落合聡司先生×植松佑介 ドクター×患者さんインタビュー 落合 聡司先生

患者さん

植松 佑介さん

Uematsu Yuusuke

2001年生まれ16歳 高校一年生(手術時中学3年生)
サッカーにより右大腿骨外側顆に5cm2の軟骨欠損を受傷

軟骨組織採取日2017年1月19日
培養軟骨移植日2017年2月16日

落合聡司先生×植松佑介 ドクター×患者さんインタビュー 植松 佑介さん


「独立行政法人国立病院機構 甲府病院 スポーツ・膝疾患治療センター」は、全国的にも名高い、ひざに特化した治療部門。アスリートへの治療だけではなく一般の方々へも的確な治療やアドバイスをおこなうことで注目を集めています。本日はセンター長である落合先生と2017年2月に自家培養軟骨移植術を受けた植松さんに直接お話を伺いました。

  • はじめに、落合先生と自家培養軟骨移植術のかかわり、そして現在どのような活動をされているか教えていただけますか

    落合:きっかけは、広島大学の越智光夫(おちみつお)先生の講演をお聞きしまして、最先端のひざの再生医療技術に非常に感銘を受けたことです。その後、広島大学に国内留学をさせていただきまして、ひざ治療の技術と当時はまだ治験段階でありましたが、培養軟骨移植術の手技や培養について学ばせていただきました。世界屈指の研究機関である広島大学で半年間学ぶことができ、大きな力と転機になったと思います。留学を終えて、甲府病院に戻り、2007年にスポーツ・膝疾患治療センターを立ち上げることになりました。
    山梨県は、中・高・大学をはじめ、プロスポーツチームも多くあり、アスリートのひざ疾患が非常に多い地域です。甲府病院にも多くの患者さんが訪れており、専門的な医療をわかりやすく提供する施設が必要とされていました。設立後は症例がどんどん増えて、ひざの外傷・スポーツ障害の治療実績では、民間の調査会社の調べで全国3位です。大きな都市に行かなくても専門的な治療が受けられる施設となり得たのは嬉しく感じています。
    患者さんの6割がアスリート、4割が一般の方という割合で、中高齢者や骨折の方も多く来院されます。スポーツの種類では、チームドクターとして山梨学院大学やTOSENクリーンファイターズ(社会人チーム)のラグビー部を診ていることもあり、ラグビー関係が少し多いです。あとは、バレーボール、サッカーという感じです。植松くんもそうですが、山梨はサッカーも盛んですからね。

  • 植松さんは治療時、中学3年生でしたね。どういったケガだったのでしょうか

    植松:ぼくはサッカーが大好きで、ヴァンフォーレ甲府のアカデミーにも所属していました。ケガをした時もサッカーの試合中でしたが、相手選手の踵がぼくのひざに強くあたってしまって。
    その時は、もちろん痛かったのですがプレーは続けられました。ところがハーフタイムに入ったところで立っていられない程になり、交代し近くの病院につれていってもらいました。その日はとりあえずひざを冷やして帰宅し、後日MRIなどで診察してもらった結果、手術が必要な大きなケガだと言われました。そして、甲府病院を紹介していただきました。

  • さぞ驚いたと思いますが、痛みやひざの状態は具体的にどうでしたか

    植松:ひざのまわりがすごく腫れていました。足がまっすぐな時はまだいいのですが、少しでも曲げると激痛が走り、歩くどころか立っているのも辛い状態でした。はじめに手術が必要なケガと聞いてすごく驚き、怖くなりましたが、落合先生から再生医療の新しい治療法である自家培養軟骨移植術で「治る」と言われてほんとうに安心しました。

     

  • 落合先生、植松さんのケガはどんな具合だったのでしょうか

    落合:ひざがかなり腫れていまして、血がたまっていました。その時は、注射器で血液を60cc程度抜いたと思います。関節の動きも悪く、30度くらいしか曲がらず、歩行も厳しい状態でした。
    右大腿骨外側顆に、広範囲な骨軟骨損傷があるというのは、前もってMRI画像などで特定できていましたが、ここまで広範囲な例は、当院でも多くはありません。

  • 植松さんに、自家培養軟骨移植術をすすめた理由を教えてください

    落合:ひざ軟骨欠損の治療方法はいくつかあります。植松さんの場合、内視鏡を入れて広範囲の骨軟骨欠損を実際に確認しました。欠損部近くに衝撃で剥がれた骨付きの軟骨の破片がありましたが、つぶれてしまっていて正常なかたちではなくなっていました。
    さらにその破片の骨の部分が薄くなっていまして、いちど欠損部に接合を試みたのですが形状が合わず、これで接合してもまた剥がれてしまうだろうと判断し、接合術はあきらめました。「自家骨軟骨柱移植術」も検討しましたが、植松さんの場合は19×27mmの広範囲な欠損でしたので、健康な軟骨を採取する場所が不足していることと、スポーツ選手としての将来性を考慮した結果「自家培養軟骨移植術」をおすすめしました。

  • 植松さんは、自家培養軟骨移植術をどう思いましたか。再生医療の新しい治療法に不安などありましたか

    植松:この治療法を落合先生から聞いて、自分でも病院のパンフレットや記事、ネットなどでいろいろ調べました。気になったのは、完全に治るまで1年位かかるというところでした。1年間、自分がサッカーをできない間に他の人はどんどん上手くなっているだろうなと考えるとやはり焦ります。でも、高校1年生のときはダメだけど、残り2年はサッカーができるのだからがんばろうと思いました。焦る気持ちも当然ありますが、周りの人にも「再発しないように焦らずじっくり治せ」と言われ、それも納得できました。再生医療という新しい治療法については、ぼくも家族も落合先生をとても信頼していましたので、そこに不安はありませんでした。

  • 2017年1月19日に軟骨組織採取、2月16日に移植手術でしたが、いかがでしたか

    植松:軟骨組織採取はたいしたことなく、痛くもありませんでしたし、すぐに終わりました。移植手術はやはり緊張しました。いままで手術なんてしたことなかったですし。
    手術が終わり、「うまくいきました」と先生から聞いた時は、心からほっとしました。麻酔が切れた時はやはり痛かったです。最初は自分の足じゃない感じでした。血もたまったりして動かすとズキンと痛かった。でも、毎日だんだんよくなってきて、それがすごく嬉しかったです。いまは普通に歩けますし、階段の昇り降りもできます。ケガをしたタイミングが春休み前だったので、春休み中に手術を受けられてよかったです。

  • 植松さんの経過についてはいかがですか

    落合:植松さんは私が治療した中で、いちばん若い患者さんです。その若さもあってか、非常に順調に回復しています。術後9カ月ほどですが、日常生活は困らない程度に回復していますね。診断画像でもいい状態です。
    今にも走り出せそうなくらいで、早く競技復帰をさせてあげたいのですが、最新の治療法なので慎重に治療をしています。やはり1年間はしっかり治療に専念してひざを作ってもらい、徐々に復帰していくことを守ってもらいたいです。せっかく治ってきたひざがまた……となってほしくないですからね。

     

  • リハビリについて教えてください

    植松:ひざを曲げることからはじまり、荷重訓練などいろいろやってきました。特に辛かったことはないのですが、ひざまわりの筋肉が落ちていて、それを戻すことが大変でした。片足のスクワットのときなどブルブルしてしまい、曲げることができなかったことは少しショックでした。痛くはないのですが。
    それぞれのメニューは、最初は違和感がありましたが、やっていくうちになれてきます。メニューのひとつにターンがあるのですが、はじめは手術をした右足では全然できなかったのが、だんだんできるようになってきて。
    こうしたことからも回復しているなあと感じられて嬉しいです。でも、まだ右足と左足の筋力に差がある感じですね。あと、ひざに負担がかかるので体重を増やさないように食事に気をつけています。

     

    落合:植松さんは、いまは3カ月に1度の通院、リハビリは当院ではなく、ご自宅近くの施設でおこなっています。当院では、遠方の患者さんがご自宅近くでリハビリができるように、リハビリをおこなう施設への紹介状とプログラムを用意しています。そして紹介先の先生と密に連携をとり、情報交換をおこなっています。当院にも多くのリハビリの先生がおり、そのうち何名かはアスレチックトレーナーの資格も持っていますので、リハビリだけではなく、アスレチックトレーニングの見地からも、競技復帰までの指導をおこなっています。
    特にひざの場合は、まわりの筋肉を鍛えることで、ひざに負担がかからないようにすることが大事なので、そうした指導をリハビリの延長線上でしっかりと指導するようにしています。
    しかし植松さんは、体重まで気をつけているのはすごい。ぼくもそこまで指導していなかったと思います(笑)

     

  • 自家培養軟骨移植術のメリット、デメリットについて教えてください

    落合:最大のメリットは、患者さんご自身の組織を使うので、免疫拒絶反応がとても少ないことです。そして、従来では不可能であった関節軟骨に極めて類似した組織を移植できること。これはアテロコラーゲンを用いた三次元培養技術により、立体的に軟骨細胞を培養することで均等に軟骨細胞を欠損部に移植できるというものです。現在の治療法の中では非常に有効な方法と考えています。
    デメリットは、移植手術が内視鏡ではできないことです。どうしてもひざを数cm切開しなければならない。これが内視鏡下でできるようになれば、患者さんの身体への負担が少なくなり大きなメリットになると思います。

  • ひざ軟骨のトラブルは自覚症状がない人も多いと聞きます。どんな症状に気をつけたらよいでしょうか

    落合:症状がないけれど、ひざにトラブルがある方が結構いらっしゃると私も感じています。例えば、ひざの打撲で来院したが、離断性骨軟骨炎が見つかった方がいました。また、50代の方でしたが、かなり進行した変形性膝関節症になっており、それは学生時代の軟骨損傷を放置したことが原因だったということもありました。
    ひざ軟骨のトラブルは、放置しておくと日常生活で少しずつ進行し、ある日いきなり骨軟骨が剥がれて急な手術を要するといった例も少なくありません。また、剥がれなくても軟骨のトラブルの範囲が広がると若年者でも高齢者に多い変形性膝関節症に移行していくこともあります。その場合は治療がどんどん難しくなっていきます。
    痛みではなく違和感がある。たとえばひっかかり感、ひざの中で音がする、水がたまる、ひざが十分に曲がらない。当院ではそういった軽い自覚症状でいらっしゃる方も多いですから、気がねなく来院していただければと思います。
    治療についても、すぐに手術ということはありません。手術しなくても、数カ月間安静にして保存的に治せる症例も多くあります。早期発見で、しっかりとした治療を施すことが大事です。
    しかるべき時期にしかるべき治療をすることです。

     

  • ひざ軟骨の治療に悩んだり迷っている方にアドバイスをいただけますか

    落合:以前は治せなかった方、もういいやと諦めてしまっている方にぜひお伝えしたいことは「医療は日進月歩で進化しています」ということです。自家培養軟骨移植術をはじめとした再生医療を用いた新しい治療法がでてきて、治る可能性がどんどん広がっています。
    再生医療は一般の方々には馴染みがないかもしれませんが、「再生医療で自分の細胞を増やして治療できる」と患者さんに紹介すると、「そんな方法があるんだ」と驚きながらも治療を望まれることも多く、私たちも、安全性、身体への負担、拒絶反応等々を考慮した上で、より安心して治療を受けていただける環境づくりに励んでいます。専門の医療施設であれば、より適切な治療を受けることが期待できますので、諦めずにいちど来院してみてください。

  • 植松さんからもアドバイスをお願いします

    植松:このケガを治す方法が昔はなかったと聞きました。でも自分はこの方法で治せるんだ、サッカーに復帰できるんだと思ったら、ほんとうに嬉しくなりました。
    最初は、復帰まで時間がかかるので、ほかに方法はないのかなと思ったりもしましたが、いまここまで回復して、もとに戻ることができると思えるので、きっと将来「あの時やってよかったな」と思うでしょう。だからもし迷っていたら、いま治しておいたほうが絶対いいと思います。

     

     

    落合:本当にそうですね。アスリートの方は、やはりケガによってドクターストップをかけられてしまうことがいちばん怖いと思います。でも、我々の使命はスポーツ寿命を長くすることです。私たちもなるべく早く復帰できるように最善の努力を尽くします。ぜひ、私たちを最大限に利用していただければと思います。
    植松さんも、これだけ真面目に治療に専念してくれているので、復帰後が楽しみです。中学の時から期待されている選手なので、きっとこれから大活躍すると思います。ケガから復帰し、再びプレーしてくれることが私たちにとって何よりのご褒美ですからね。
    本日はお忙しい中、本当にありがとうございました
    (2017.11.16 甲府病院にて)

     

     

    独立行政法人国立病院機構 甲府病院
    病院長 萩野 哲男
    〒400-8533 山梨県甲府市天神町11-35

     

    明治42年に甲府衛戌病院として創設され、昭和20年に国立甲府病院として発足。平成16年に国立病院機構西甲府病院と統合して、現在に至る。成育医療として、NICU・GCU(未熟児後方病床)9床、産科病床20床を有し、山梨県の地域周産期母子医療センターに指定されており、山梨県の小児救急医療病院群輪番制及び甲府・中巨摩地区の救急医療病院群輪番制にも参加し、山梨県の救急医療に貢献している。また、重症心身障害及び小児神経疾患に対する専門医療、さらに糖尿病、高血圧、高脂血症等の生活習慣病及び内分泌疾患に対する治療、消化器疾患に対する治療(腹腔鏡下での手術含む)もおこなっている。

     

    甲府病院平成19年(2007年)6月には整形外科にスポーツ・膝疾患治療センターを開設。スポーツが原因の障害(ケガ)、特に膝関節疾患の治療を積極的におこなうことを目的とし、アスリートを中心に多くの患者さんのために積極的に活動している。看護師や医学部の学生、ならびに理学療法士などパラメディカルのための教育活動も提供。さらに、膝の内視鏡を駆使した関節鏡手術に関わる調査・研究を進め、常に最新の医療が提供できるよう努力している。患者さんの早期復帰を目的に、メディカルチームを作って、コミュニケーションを大切にし、内視鏡による体に優しい治療を目指している(関節疾患に対する内視鏡手術は年間775件で、膝靱帯再建術は山梨県内で最多)。