自家培養軟骨移植術 再生医療ナビ 特設サイト

近藤岳登 黒田良祐 対談

今回は、FC大阪所属 プロサッカー選手「近藤岳登」さんと、神戸大学医学部整形外科 教授「黒田良祐」先生から、再生医療による新しい治療法「自家培養軟骨移植術」についてのお話をうかがいます。 近藤選手は昨年(2015年)に、黒田先生により「自家培養軟骨移植術」の手術を受けられました。 現役プロサッカー選手では初めての手術ということもあり注目を集めています。

まず最初に、黒田先生が在籍する「神戸大学医学部整形外科 膝・スポーツグループ」とはどのようなことをされているのでしょうか。

黒田:私たち「膝・スポーツグループ」は、スポーツ選手のヒザの診療を主に行っています。サッカーの「ヴィッセル神戸」、神戸製鋼ラグビーチーム「コベルコスティーラーズ」、野球では「オリックス」、バレーボールの「久光」や「JT」など、さまざまなプロチームのメディカルサポートをしていることもあり、プロスポーツ選手や、その紹介によるアマチュア選手などが多く訪れます。もちろん、一般の方の診療も行っています。そしてもうひとつの柱として、患者さんへより良い治療を提供するための「基礎研究」を行っています。近年力を入れているのは、再生医療分野での関節治療です。
15年くらい前までは軟骨を怪我すると、なかなか元通りには戻らないといわれていました。しかし、基礎研究をもとにした治療法ができ、無理と思われてきたことが近年では可能になってきています。今回のテーマ「自家培養軟骨移植術」もそうです。こうした10年、20年先を見越した基礎研究と治療の2つの側面から、より良い治療を目指しています。

近藤選手は黒田先生とずいぶん仲が良いようですが。

近藤:ヴィッセル神戸時代からの付き合いですから、もう9年くらいになりますね。怪我の治療はもちろんのこと、メンタル的にもすごく支えてもらっていて、絶大な信頼をおいています。

黒田:彼がヴィッセル神戸に来たときはまだ若くてね。サッカーをいちど辞めて、サーフィンとかしてたらしいですけど、またサッカーがやりたくて戻ってきた、とか言っていたかな。(笑) もう9年にもなるのですね。

近藤選手のヒザの症状はどうだったのでしょうか。

黒田:彼がヴィッセル神戸から水戸ホーリーホックに移り、FC大阪で関西に戻ってきた頃、半月板を損傷してボクが手術しました。彼のヒザに初めて内視鏡をいれ、軟骨があまりにもなくなっていたことにびっくりしました。
そのときは最適な治療法がなく、半月板の手術だけを行い、本人には「半月板の手術は終わったけれど軟骨がかなり痛んでいるので、果たして復帰できるのか疑問である」と伝えました。彼はサッカーを長年やってきているので、以前より軟骨を痛めていたのですね。ダメージの蓄積がここまで悪くしたのでしょう。

近藤:ヒザがそんなにひどい状態だと聞かされて、ボク自身がいちばん驚きました。自覚症状がなかったので。いや本当です。
そして、そのヒザが治る可能性のある、新しい治療法があると、「自家培養軟骨移植術」を教えていただきました。ヒザを治すにはこれしかない、と言われたらやるしかないです。
でも、本当は結構悩みました。復帰までの期間とか、費用のこととかいろいろ。最終的な決断は、チームがGOをだしてくれたことが大きかったな。FC大阪がいっしょに頑張ろうと言ってくれて、本当にうれしかった。あと、保険もきくと聞いて、費用のことも安心して。(笑)

近藤選手の手術を具体的に教えていただけますか。

黒田:「自家培養軟骨移植術」は、手術が2度必要です。軟骨細胞を取り、その細胞を1カ月間かけて増やし、2度目の手術でその軟骨細胞を移植します。
1回目の手術は、30分くらいの簡単なものです。彼の軟骨欠損はかなり大きく欠損部分が7.2?ありました。短い期間に2度全身麻酔の手術をすることに不安がある方もいらっしゃると思いますが、まあ1年も経つとこんな感じです。(笑)(近藤選手を指差して)
また、彼の場合は足の矯正のための「高位脛骨骨切り術」も行いました。2つ同時の手術はボクも初めてでしたので緊張しましたね。手術にかかった時間は5時間半程度でした。

近藤:えっ、先生が手術についてニコニコしながら説明をするから、この手術はそれほど大したことないのだろうなと思っていたんですよ。

黒田:岳登の前では楽観的な顔してたけど、2つ同時の手術は、初めてだったからね。いや緊張していたよ。

先ほど、近藤選手はヒザトラブルについて自覚症状がなかったとおっしゃっていましたが。

黒田:プロスポーツ選手は、自覚症状がない方も多いですね。中学、高校、大学、そしてプロ。彼らは、小さな頃からずっとスポーツをやり続けてきて、ヒザ軟骨にトラブルがあっても、きっと少しは痛いこともあると思うのですが、普通にできてしまう。そして、本当に痛くなってから病院に来る。検査をしたらこれは随分前から悪かったですね、という話はよくあります。プロスポーツ選手は、やはりギリギリまでやってしまうようですね。

近藤:サッカー選手も、多くがそうだと思います。常に、どこか体の不調や痛みがある。ボクも、ねん挫など慢性的ですし。だから、なかなか気づきにくいと思います。

黒田:そうだね。選手のロッカールームに行くと、結構ぐるぐるとテーピングしている人がいる。でも、ストッキングを上げたらテーピングが隠れて他の人にはわからない。そんな現場をみると、痛めている人がずいぶん多いのだろうなと思います。サッカーは1試合10キロくらい走ります。岳登はサイドバックですから、ずっと切り返し、切り返しです。これはヒザにはつらい。悪くなってきますよ。

近藤:今さらですが、ヒザ周りの筋トレはすごく必要だと思います。もも前とかふくらはぎ、ハムストリングスとか鍛えないと。ボクの今までの人生で、そこだけはやり直したいです。だいたい怪我をしてから気づくから、その前に鍛えた方がいいですね。(笑)そして、少しおかしいと思ったら病院に行く。

黒田:そうです。昔なら病院に来てもらっても治せなかったことが、今だったら「軟骨の手術をすれば治りますよ」という話ができるかもしれない。何年か経ってすごく悪くなってからよりも、早めに小さなキズで治した方が手術も軽いです。この手術自体、日本ではまだ200例ほどの新しい治療法だから、もっとたくさんの人に知ってもらいたいですね。

近藤:余談ですが、手術が終わった時に、先生に「成功しましたか」と聞いたのです。そうしたら、「成功したかどうかは、きみが復帰した時にわかるよ」と言ってくれた。感動しました。あの一言はしびれました!

いいお話ですね。今後、黒田先生が目指す医療・研究などについてお話いただけますか。

黒田:「自家培養軟骨移植術」という再生医療による治療法ができたことで、今までは治療を諦めていたスポーツ選手やヒザの悪い患者さんが、ふたたび希望が持てるようになりました。
そういう時代が本当にやってきたのだな、と実感しています。ただ、今の治療で満足かといえばそうではありません。「自家培養軟骨移植術」は、まだ簡単に「じゃあ、手術をやりましょう」と患者さんに言えないのです。それは、手術自体が難しいこと、患者さんが2回手術をすること、手術をしてから結果が出るまで1年くらい掛かること、などがあります。もっと簡単に手術ができて、もっと早く社会復帰できて、もちろんスポーツができる。そうした治療法が次々に出てきてほしいし、すごく期待をしています。 ボク自身も、今後も新しい再生医療の研究もつづけていくつもりです。できれば、5年以内により良い治療法を実現したいですね。そうすれば、岳登のような、いまヒザで困っている多くのサッカー選手やスポーツ選手が、現役のうちに復帰できるかもしれない。この手術により、日常生活に戻ることは比較的たやすくできると思っています。でも、本物のトップアスリートレベルまで戻すというのは、まだまだ未知の世界です。それを岳登がみんなに見せないとね!

近藤:ほんとですよ。道しるべにならないと。実現したら、神戸大学医学部附属病院にボクの銅像を飾ってくれますかね。

黒田:もちろん、いいですよ。(笑) 最後にもうひとつ。「自家培養軟骨移植術」は、保険が使える治療です。一般の保険診療になっていますので、再生医療だからといって、お金がとてもかかるという治療ではありません。まだ保険がきかないと思っている人が多いのでお伝えしておきます。

本日は、ためになるお話をありがとうございました。近藤選手の復帰を楽しみにしています。

PROFILE

近藤 岳登 Gakuto Kondo
1981.2.10生まれ(35歳)愛知県豊川市出身
1999
愛知産業大学三河高校卒業後、大阪体育大学にサッカー入学、
1カ月後退学。サーフショップ勤務
2001~2002
東海理化SC(社会人チーム)
2003~2006
びわこ成蹊スポーツ大学入学、関西学生選抜に2年連続選出。
2007~2012
ヴィッセル神戸
2013~
水戸ホーリーホック
2014~現在
現在 FC大阪
経過
2015.1
自家培養軟骨移植術用に軟骨細胞を採取
2015.2
自家培養軟骨移植術・高位脛骨骨切り術(HTO)同時オペ
2015.12
HTOプレート抜去、自家培養軟骨移植部位の状態確認
2016.1
リハビリトレーニングをしながらFC大阪練習参加

黒田 良祐 Ryosuke Kuroda
神戸大学医学部整形外科 教授
●日本整形外科学会専門医
●日本整形外科学会認定スポーツ医
●日本整形外科学会認定脊椎脊髄病医
配信元 Japan Tissue Engineering Co., Ltd. (J-TEC)
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